この住宅は、西尾市郊外の田舎家が点在する集落の一角。お客さんの家族は夫婦と2人の子供。大正時代より、施主の祖父の代から受け継いだ生家を解体し、新しい家族を田舎へ迎えるべく建てられた、木造2階建ての住宅です。広い敷地の中には解体した生家とは別に、母親の住む純和風建築の「はなれ」と倉庫があります。
施主からの要望は、「敷地内にある和風建物・和風庭園と調和するようなモダンな住宅」「近所の人が気軽に敷地に入ってこられるように、しかし建物の中のプライバシーは守りたい」この2点でした。
コンクリートの壁に木梁現しの屋根を架けたガレージを和風庭園手前に配置。このガレージがフィルターとなり和風の印象を抑え、古いもの(和)と新しいもの(モダン)との調和を図りました。この住宅は、(寝室・書斎)、(LDK等の生活空間)、(和室)の3つの棟を渡り廊下で結ぶ構成。この渡り廊下はただ棟を繋ぐだけでなく、敷地内の「公」と「私」を作り出しています。
玄関・ガレージ・倉庫のある誰でも気軽に訪れることのできるエリアと、棟と棟の間に作られたプライベートな中庭とを、渡り廊下により明確に分けました。そして3棟のうち和室の棟を、母親の住む「はなれ」に最も近い位置に配置。和室棟への渡り廊下に足を踏み入れると、昔懐かしい時代が想い起されます。
和室の仕上材には、解体した生家に使われていた木材を再利用しました。洗い、磨き、痛んだ所は切り落とし、大正時代からの柱、梁、無垢一枚板の天井板や無垢一枚板の床板などが現代の和室に蘇ったのです。そして存在感のある尺角の欅の大黒柱は、製材し、テーブルとして再び和室に佇んでいます。
「はなれ」を含む4つの棟を並べ、古いものから新しいものへと段階的に調和させたこの建物が、昔の時代を次の世代へと伝えるきっかけになればと考えました。